介護現場であった虐待事例
介護施設での虐待
介護という仕事は虐待と紙一重という事実をご存じでしょうか。
そして悲しい事に、今日もどこかで紙一重を間違えて虐待が行われている現実があります。
ちょっと他所では語られない、介護の虐待についてお話しましょう。
虐待事例1 夜勤中の暴力行為
ある男性介護士がいました。介護経験は5年ほどで、介護福祉士の免許は取得していませんでした。
慣れた手つきで夜勤をこなし、施設内でも任せて問題ないと評価される人物です。
施設での何気ない昼間、ある入所者が「あの職員(男性)さんが毎晩私をたたきに来る」と言い始めました。
周りの職員は「毎晩と言っても、毎日あの人が夜勤している訳でもないし、認知症の始まりでしょ」と気に留めていませんでした。
それからしばらくして、その事がご家族に知れる事となってしまいました。
相談員さんも男性職員の経験と人柄を話し、ご家族としても「そんなはずない、自分の親が認知症がひどくなったのでしょう」とご理解頂きました。
またしばらくして、この騒動が落ち着いた頃入所者から同じ発言を聞くようになりました。
入所施設での夜勤は2人一組で行う事が基本とされており、その時間内にはお互いに仮眠もあるのです。
つまり1人で仕事をする時間があるという事になります。
相方が寝静まった仮眠時間、男性職員は1人で巡回に回ります。
この施設では夜勤者以外に守衛さんを毎夜配置しており、その守衛さんが偶然施設内を巡回していてある部屋の前で立ち止まりました。何か言い争う声を聴いたからでした。
「お前なんていなくなればいい、早く何かしらの方法でいなくなってくれ」
「何を言うか、年寄りだと思ってバカにして」
こんなやり取りだったと言います。
でもこの部屋はあの入所者の部屋でした。
守衛さんにも認知症である事はたいてい伝わっており、守衛さんも独り言かと思いましたが何かあってはいけないと思い、少し覗いてみてたまたま見つけた現場でした。
そこで言い争っていたのは紛れもなく独り言ではなく、男性職員と入所者が押し問答を繰り返していたのです。
次第に声のトーンは上がっていき、言葉も益々乱暴になっていきました。
「死ねないなら俺が殺してやろうか」
守衛さんは耳を疑いましたが、確かに聞いたその言葉に驚きました。
そして男性職員はあろう事か入所者のお腹を手で殴っていたのでした。
さすがにまずいと止めに入り、相方であった仮眠していた職員を起こしたのでした。
発覚してから1時間ほどで施設関係者が集まりました。
経験が長った男性職員だけに施設の関係者も驚きましたが、ある証言が後から出てきました。
「仮眠中はゆっくり寝ていいですよ、基本的に起こしませんから」
男性職員にこう言われた相方がたくさんいたのでした。
施設夜勤における仮眠というのは、ハッキリ言ってゆっくり寝られるものではありません。
何かあった場合は起きて対応しなくてはいけません。
ですがこの男性職員は「何があっても起きなくていい」と言う程に、何度も「ゆっくり寝て」と言っていたのでした。
経験も長いだけに最初は信じられない話でしたが、被害にあった入所者のレントゲン写真には外部からの衝撃による骨にひびが入っていました。
当然これだけの事ですから施設側もご家族へ報告し、「本人からの訴えが実は事実であった」ことを伝えました。
ショックを隠せない様子ではありましたが、警察へ通報となり後日傷害容疑で逮捕となったのでした。
こういう事件は後々になって色々な事が出てきて、関連付けされたりしますが「介護福祉士を取得しなかった事」も言われるようになったのです。
元々この男性職員は介護福祉士の受験自体していなかったそうで、周りには「介護福祉士となることで束縛される」という趣旨の発言をしていたのでした。
虐待している事にいくらかは自責の念があったのかは分かりませんが、介護をしていると自然な流れとして介護福祉士の受験がやってきます。
これを断っていたのですから、何かしらの理由があったのでしょう。
それが虐待をする?というものかは分かりませんが。
この男性職員は執行猶予付きで有罪となり、介護の世界だけではなく地元からも姿を消してしまいました。
どこかでまた介護をするとして、介護福祉士を取得しようとしても元いた施設からの経験証明書が発行出来ないため、介護の世界には戻る事は難かしいでしょう。
虐待事例2 「教育と称した暴行」
介護士施設とは少し違いますが、地元の障害者施設でのお話です。
ここは自宅で生活可能な障害者が通って支援を受けながら仕事をして、いくらかの報酬を得る施設でした。
地元では30年からなる施設で、ここの園長さんも70代のおじいちゃんで協会の重役を務めた経験もある人でした。
ある時、ここに通う障害者の家族から役所に「息子が障害者で施設に通っているが、ここの園長から暴力を受けている」との相談がありました。
歴史ある施設であったため役所側としても判断が難しく、中々厳しい状況ではありました。
この話がどこから漏れたのかは分かりませんが、地元の新聞社が小さな記事を書きました。
福祉施設での虐待話はこの当時あまり表向きには話される事は少なかったため、これをきっかけにマスコミも動き始めたのでした。
園長さんへの取材が殺到し、同時に管轄する市町村役所へも取材が及ぶことになりました。
元々家族からあった訴えを無視している結果になったため、それから間もなくして施設内の立ち入り調査がありました。
結局、園長さんの暴行が発覚し、その詳細が徐々に明らかになってきたのでした。
あろう事か福祉施設の園長さんが「障害は気合が足りないから」と訳の分からない理由をもとに、通っている障害者を柱に縛りつけていたのです。
特に言う事を聞かない障害者には更に教育と称して縛りつけたうえに、ホウキで叩いていたのでした。
地元で長い歴史がある施設の、しかも園長さんがやっていた暴行に驚くばかりでした。
気になるのは「他に職員がいなかったのか」という事ですが、他の職員も園長さんに意見出来ずに見て見ぬふりしていたという事だったのです。
この施設はマスコミでも大きく取り上げられ、園長さんは裁判沙汰となったのです。
現在も運営していますが、筆者は父親がこの施設の建設に携わった事から園長さんを昔から知っていました。
虐待事例3「故意の誤薬」
入所施設では日々高齢者の「服薬」を担ってます。
特に夜間は看護師も不在であることから、寝る前の薬は介護職員が飲ませています。
高齢者となると血圧の薬が非常に多く、寝る前に飲む方も多くいらっしゃいます。
介護職員は血圧の測定も出来るので、「測定してから血圧が高かったら薬を飲ませる」という事もやっています。
ある女性職員の話ですが、非常に仲の悪い女性入所者がいました。
元々口が悪く、介護職員にも感謝とは程遠い言葉を浴びせていました。
よってこの入所者は嫌われていたのですが、女性職員は特に嫌っていたのか夜勤の時ビックリする発言を相方にしたのでした。
「あの人嫌いだから私が夜勤の時、毎回血圧が下がる薬を飲ませてます。血圧が下がって少しはおとなしくなるかと思って」と笑いながら言ったのでした。
この時の相方も確かに女性入所者を嫌ってはいましたが、勝手な服薬はさすがにしてはいけない行為だと考え施設に通報したのでした。
幸い女性入所者の体調に変化はありませんでしたが、本来飲ませるべきでない薬を飲ませた行為は虐待にあたるものです。
施設側が行った調査によると、本人からの証言もあってかなり長い期間こういった行為を行っていたそうです。
この行為にはもう一つ過失があり、「本来その薬を飲むはずだった人が飲んでいなかった事」も虐待にあたると判断されました。
2つの虐待行為が同時に行われていた事で、この女性職員は薬事法違反にも抵触する恐れがあった為懲戒解雇となりました。
高齢者が死ななかったから良かっただけで、やはり医師が処方しない薬を飲ませていたというのは怖いですね。
介護の虐待はなくならない
介護の虐待は今もどこかで確実に起こっていると言えます。
それはやはり介護の闇が必ず存在し、全てが目に見える形では行われないからです。
ですが介護が存在し続ける限り虐待はついて回り、切り離す事が出来ない悲しい出来事でもあるのです。
やはり出来る事なら「介護はしたくない」というのが人間の心の奥底にあるのかもしれません。
こぶしは振り上げても振り下ろさないというのがプロなのですが、同時にプロも人間であるという事です。
あまり日の目を見ないだけで、確実に介護の虐待は起こっているのです。
目に見えないところで起こっているから知らないだけであって、想像を絶する虐待が存在します。