介護への転職!デパート販売員から介護相談員へ
介護への転職した人のお話です。デパート販売員から介護の相談員になられ、うまくいっている人の事例です。
介護職への転職者はこのところ増加傾向にあるのですが、昔はそうでもなかったと言います。
介護の仕事自体が「特殊」と捉えられていた面もあり、あまり人気のある職業ではありませんでした。
そんな介護の仕事にデパートの販売員から転職し、施設立ち上げに関わった一人の男性のお話です。
筆者の師匠でもあるこの人物のお話を少し覗いてみましょう。
お客さんから声をかけられ介護の世界へ
33歳男性のHさんはある地元デパートの販売員でした。
田舎とはいえ、まだまだ栄えていた地元のデパートでしたがそれなりの規模を持つ商業施設だったそうです。
そこに来るお客さんは地元に住む昔からの方がほとんどで、繁忙期であるお盆や年末年始でも帰郷した結局は地元の人でした。
お客さんの層からしても、物を買う以外の注文が多かったそうです。お店には関係の無い小さな相談から、世間話まで「広い意味で接客」をしてきたのでした。
Hさんはそのデパートに10年から務める販売員として、中堅クラスの立場から地元でも「あのデパートに行けばHさんがいる」と、結構知られた人物でした。
売り上げに繋がらない相談や世間話も接客と思ってやっていたHさんは、地元のお客さんからしてみれば「困りごと相談室」みたいな存在です。
その愛嬌と姿勢の良さは評判でした。
ある時お客さんが「今度老人ホームを立ち上げるから来てみないか?」と声をかけられました。
この時のお客さんはお医者さんで、その施設の理事長となる方です。
Hさんは「ご招待」とばかり思い、数日後その施設を訪問したのでした。
介護業界に転職!施設立ち上げから関わる
Hさんが施設訪れると、そこにはまだ建物すら建っていない状況でした。
「見に来てみないか?」と招待されたものと思っていたHさんが不思議に思っていると、先日のお客さんであった理事長さんが出てきました。
「見に来てほしいと呼んだのではない、デパートでの働きぶりを買ってぜひうちで相談員として一緒に施設を立ち上げてくれないか?」
理事長さんにこのように言われたのです。
Hさんは「デパート経験しかない自分が介護施設の相談員?」と、首をかしげたそうです。
これがHさんと介護の初めての出会いとなりました。
介護の経験がない自分の存在意義
介護の経験はおろか、介護に興味すらない自分に何故声がかかったのかも分かりません。
理事長さんに聞いたのでした。何故かと。
「私は医者であって介護の仕事はしたことがない、しかし近いところにはいる。介護とは総合力であって、人の困りごとを聞くところから始まると思っている。それでお願いしたい。」
との答えが返ってきたのでした。
まだ時代が今ほど介護を必要としていない頃、先を見越して病院へ移設で施設を立ち上げるという事でHさんは転職を決意しました。
「自分のような未経験者を求めてくれたのは何故か。その答えを知りたい」と考えて。
施設の立ち上げには色々な職種の人間がいたそうですが、介護を専門的にやる人は別にちゃんといて、そのニーズを吸い上げる役目がHさんでした。
知りもしない介護をやるための施設立ち上げが始まりました。
介護未経験だからこそ、逆に自由な施設立ち上げに
介護経験が無いHさんが思う施設とはどんなものか?こんなところから施設立ち上げが始まりました。
施設という常識的な決まり事みたいなものは最低限あるとして、入所者が実際に生活するうえで必要なものに関してはレイアウトからスタートしたのでした。
未経験者である事は皆最初同じですが、同時に先駆者でもあるため責任と自由な発想が求められます。
よくあるのですが、他の施設を見学して参考にして立ち上げに関わると「どうしても似ている施設」が出来上がってしまうものです。
なにも同じ施設を作りたい訳ではありませんし、その必要もありません。新しい施設として求められるものが何かを模索しました。
そして「他にない何か」を作り上げるのも自由です。
介護施設ではお仏壇と神棚は必須設備
高齢者と呼ばれる今の世代も重なる部分がありますが、昔の人は「拝む」事に対して結構熱心だったりもします。
これは宗教的とかではなくて、農業をやってきた日本の民族にとって何かにすがるとも言える、手を合わせる行為は一般的な作法でもあります。
時代が変わり今の若者はあまりやらないかもしれません。
その機会があるとしても初詣ぐらいという方は多いでしょう。
やはりお年寄りは手を合わせる場所があるだけで落ち着く、そんな感じすらあるのです。
ここで問題となるのが「宗派」の違いです。何も宗派といってもそんなに大がかりなものではなく、神様か仏様かです。
ですから家庭によってはお仏壇がある家と、神棚がある家は結構ハッキリ分かれていたり、両方ある家も少なくありません。
こんなところからお年寄りが落ち着くための何かを考えた時、お仏壇と神棚を隣同士にする事を決めたのでした。
出来上がってみると少し違和感はありますが、入所者からしてみれば「手を合わせる場所」がある事の方が重要です。
Hさんはこういった「生活の主軸ではないけど必要なもの」の整備にあたったのでした。
介護の事は専門家である介護経験者がいますし、それは任せておけば良い事です。
Hさんは相談員として、入所者が落ち着ける空間を少しでも充実させる事がメインの仕事なのでした。
介護とは総合力の実践
今でこそHさんのいる施設が立ち上がって10数年が経過し、介護に対する体制も確立出来ましたが、立ち上げ当時はそうでもなかったと言います。
介護の経験者がいるとは言え、それは違う施設での経験でしかなく、介護自体の動作は得意でも新しい施設では「流れ」が分からないものです。
Hさんは理事長さんに言われた「総合力」を老人ホームでどう活かすのか、未だに分からないままだったと言います。
ある時職員に急な病欠者が出て人員不足になった日がありました。
Hさんは介護主任と勤務表を見ながら、休みの職員に応援をお願い出来ないかと電話していました。
そしてこの時ハッと気づいたのでした。老人ホームにおける総合力とは何かを。
それは「入所者の生活が滞らない事」が第一優先であり、それを優先出来るために尽力する事が総合力という事でした。
Hさんは電話での人員確保をやめ、自らが当たり前に介護に従事する事を決めました。入浴介助を相談員がやるなんて、結構日常茶飯事だったそうです。
今でこそ介護施設では決められた役目通りにそれぞれが動いていますし、これが当たり前と思われているかもしれません。
しかしそれはあくまでも「確立されたレールの上」であって、恵まれた環境でしか無かったりします。
Hさんは当時の事を話してくれますが、今も変わらず「尻軽な」相談員さんです。何でもやってくれます。
これがデパートで培われた総合力を活かす場面だったのでした。
転職はどんな機会で訪れるか分かりませんし、意外と役に立つそれまでの経験だったりします。
介護施設では利用者(入所者)からしてみれば、「皆職員さんでしかない」のであり困ったら皆助けてくれるものと考えられています。
あくまで優先されるのは利用者であって、介護側の都合なんて関係ありませんから。ですが困ったことに介護側も人間ですし、都合だってあれば不測の事態も考えられます。
これをカバーする事が出来る人間が介護の世界では活躍出来ます。
実は介護の経験なんて必要ないかもしれません。
その場で聞けば出来ます。介護施設で働くという事は「介護する」という考え方に捕らわれますが、実はそうでもない瞬間が多くあります。
困っているお客さんを助ける、その中に少し「介護という困りごとが多い」と考えると気楽ではありませんか?
介護は誰でも出来るという事を証明するお話でした。