10数回転職したが介護職で続くようになった37歳の女性の話
介護施設で施設長をしている私が、介護職に転職しようかと考えられている方の為に、一人の女性の事例をご紹介します。
転職を重ねてきたのに介護で落ち着いた、一人の女性のお話です。
※この記事は介護施設の施設長が本人にインタビューして作成しました。
介護への転職「長続きしなかった仕事が介護で落ち着いた」
筆者も介護に出会う21歳まで、職を3つ程変わり転々としていました。
上には上がいるもので、10数回の転職をしてきて介護に落ち着いた人がいます。
面白みを感じられない人生
高校を卒業して、地元の建設会社の事務として勤務した女性で現在37歳のOさんがいます。
介護経験は4年目に入りました。
Oさんは親にずっと言われてきた事があるそうです。
それは「いずれ結婚するんだから仕事はそれまで」というものでした。
この親の世代では確かにそういう考え方が一般的で、今は時代が変わった事もありそうでもありません。
しかしその事をずっと考えてきたそうです。
「いずれ」とか「どうせ」なんて気持ちがあると、介護の仕事がどうこうと言うよりどんな事も長続きしないものです。
彼氏という存在はその時々に居たそうですが、結婚とまではいかない相手だったそうです。
32歳まで実に13の職種を転々としてきたと言います。まだ結婚はしていません。
結婚をメインに職選びをしてきたのに…
いずれやってくるかもしれない結婚を考慮しすぎて、結局職場を転々とし、そしてそれぞれの職場でも長続きしない事から、人間関係も上手くいかなかったそうです。
事務職がメインでしたが経験年数が浅いうちに辞めてしまっている事で、資格やスキルも身に付かないまま社会人になり14年が過ぎました。
32歳になったある時、Oさんは同窓会に誘われました。
年末の同窓会であった事もあり、忙しい人は来られないというのは当然です。
逆に来られる人はというと、男性で言えば有名企業に勤め中堅に出世したサラリーマンや、女性は結婚した主婦かこれも同じく出世したサラリーマンだったそうです。
この時、Oさんはパートでたまたま休みがあったから出席したのでした。
結婚もしていない、仕事も成就していないOさんは凄く惨めな自分を悲観し、つい同級生にも嘘をついてしまいました。
女性として、一人の人間として、人生において何一つ得るものが無かったOさんは「今まで何をしていたんだろう」と考えたのです。
決して結婚や仕事で成功する事だけが幸せではないのかもしれませんが、少なからず何かをやり遂げたという達成感を感じられたのでしょう。
介護の仕事との出会い
同窓会ですっかり落ち込んでしまったOさんでした。
元々結婚までの繋ぎとしか考えていなかった、この時のパートも結局やる気をなくしてしまいました。
いつも通り辞める事になり、失業保険を貰いながら自宅でダラダラと過ごす毎日でした。
深夜のニュース番組で「介護保険の改正に伴って介護報酬が下がる」といった内容を耳にしました。
これまでは介護の「か」の字すら興味のなかったOさんでしたが、この時は仕事もしてない自分に言い聞かされるような感じがしたのでした。
「介護って大変な仕事なのに、給料が下がるってどういうこと?」と考えたそうです。
少しだけ介護に興味を持ってしまった瞬間でした。
介護の仕事をやろうと考えてみた理由
やはり目の前に浮かぶ理由は「将来親の介護をしなくてはいけない」というものでした。
偶然にもOさんは兄妹がいなかった事も理由の一つです。
結婚もしていない一人っ子であった場合、その介護は自分一人でやるのは当たり前とも言えますし、結婚していない事で協力者も限られます。
そんな中で技術も心構えも無いままに介護する瞬間を迎えるなんて、Oさんは怖かったそうです。
今でこそ「良く言えば親を看取る決心をしたから」と言いますが、当時は諦めにも似た逆境であったとの事でした。
とにかくこのまま自分の将来を考えた時、先の見えない不安を一つでも拭いたかった一心だったのです。
そしてOさんは「まだ自分の生きがいとは考えていない介護」に向かい始めました。
とりあえず介護初任者研修の資格を取得
Oさんが介護をしようと考えた時期は、すっかり介護初任者研修という資格が定着しており、これが無くては介護の仕事に就けないという状況でした。
まずは介護初任者研修の資格の取得から始まりました。
介護初任者研修の座学を数十時間こなしていく中で、受講者同士がお互いに仲良くなったりして「動機」を語り合います。
Oさんは当然「親の将来を心配して」とお手本のような理由を話していました。
事実これが理由であり、決して「それ以上」ではありませんでした。
動機があるとはいえ、義務感とも取れる「やらされている感じ」からすれば、これまでの仕事とあまりやる気は変わりません。
そうしながら資格取得の研修は時間が過ぎていきました。
介護のお仕事をしたい人が多い理由とは
元々は「介護報酬が下がる」と聞いて介護の方向へベクトルを向けただけのOさんですが、とは言え研修受講者が多い事は疑問でした。
この時の研修者は30名だったそうです。
給料も安い、そして大変な仕事である介護に自分も飛び込んだとはいえ、何故こんなに多くの人が目指すのかは大きな疑問でしかありません。
研修者同士の同期から話しを聞いていくウチに、介護の仕事の面白さや「捉え方」を学んでいったそうです。
何故介護をするのかが徐々に見えてきました。そしてその理由は個人個人違います。中には「介護している人を見返すために」なんて人もいたそうです。
それほどに「バリエーションに富んだ」理由と動機を聞いていく中で、「介護って面白いのかも」と考えるようになりました。
事務職がメインで、しかも長続きしなかったOさんにとっては32年の人生で初めて「興味を持てる仕事」でした。
介護のお仕事をはじめた事で人生の岐路ができた
多くの方は現場研修で何かを更に感じると言いますが、Oさんもその一人でした。
現場実習の時、ある女性高齢者に言われた言葉があるそうです。
「結婚も仕事も授かりもの、その時が来れば自然に流れに乗ればいい」
こう言われたOさんは、結婚もそうですがこれまでやってきた仕事にも悔いる事になりました。
結婚出来ないのではなくてその時ではないだけ、仕事も頂けるだけありがたいと考えなくてはと。
そして今Oさんがであったのは「介護という仕事」なのでした。
Oさんは偶然にも介護と出会い、これを本気でやってみようと決心しました。
何かに一所懸命な人間は自然と輝く
少し出来過ぎなお話と思えるかもしれませんが、まるでシンデレラストーリーのようなお話がOさんに降りかかります。
介護を初めて1年弱の頃、施設の夏祭りで入所者の家族から男性の紹介があったそうです。
筆者の管理している施設なのですが、結果として結婚してしまいましたから?不問にしています。
入所者の家族はOさんが入職した頃から、半年程の変化を見ていたそうです。
介護を始めた当時は「目も当てられない」感じだったそうで、とても介護員としては未熟と映っていたそうです。
Oさんとしては女性高齢者に言われた言葉から、自分の生きがいとも思える仕事として介護に取り組み始めました。
そうする事で、仕事にイキイキしているOさんに変化したのでした。
最初はダメな介護員さんというイメージから、入所者の家族からの見え方が変わっていきました。
偶然にも独身で、年齢も結婚していても普通であった事から男性の紹介となったのでした。
今ではすっかり介護の仕事が定着した
Oさんは今では結婚し、子供も生まれ介護を始める4年前とはすっかり見違える人間になりました。
出産の前後がちょうど介護経験3年を迎えており、産休を通じて介護福祉士を勉強して見事筆記に合格、その後出産して実技試験にも合格してしまいました。
産休の時期は介護から離れて少し寂しかったとまで言います。産休明けから復帰したOさんは、介護福祉士の資格まで持った経験者として帰って来ました。
赤ちゃんを連れて介護に来る日もあり、入所者からも喜ばれています。
施設にとって、そして働くOさんの双方にとってお互いが欠かせない存在となっていきました。
介護を通して仕事が定着したというお話は結構多く聞かれます。
確かに苦難もありましたが、この女性にしてみれば人生自体が大きく変わっていったとも言える状況です。
そんなにうまい話だけじゃないでしょ?と思われるかもしれませんが、介護の職場は結構な確率でこういった、転職してきてよかったね、っていう話が転がっています。
興味を持たれた方はぜひ介護の仕事を一度やってみられる事をお勧めします。